トリコジナ(Trichodina属とその近縁属)は、原生動物の繊毛虫類に分類される寄生虫で、ほとんどの錦鯉に最も普通に見られる。古くからサイクロキータとも呼ばれてよく知られている。
虫の形は円盤状で、周囲に無数の繊毛を持っている。大きさは0・07o程度で肉眼では見えない。大量に寄生してもはっきりとした症状が現れないこともあるが、体表のザラつきや白雲症状、充血が見られ、食欲不振、動きが不活発になる。この症状はイクチオボドやキロドネラの寄生症と似ていて区別しにくく、また合併症のことも多い。正確には40〜100倍の顕微鏡で確認することができる。トリコジナの駆除は比較的容易である。トリコジナは、寄生した魚体の細胞崩壊物や、体表に付いたバクテリアなどを食べているので、病害は魚体に密着して寄生するさいの刺激によるらしい。
ほとんどの錦鯉に蔓延しているが、虫が数個発見されたからといって、すぐに駆除しなければならないような病気ではない。鯉が健全に育っていれば虫の繁殖を抑える力があり、飼育水の汚染や過密飼育、水温の急変、栄養状態の悪化などが要因となって、鯉の体力が低下した時に大量繁殖するものと考えられる。
【発病時期】
四季を問わずいつでもみられるが、秋から越冬中にかけての低水温期の被害が特に多い。また梅雨時期の稚魚に多数寄生することもある。新しい鯉を池に入れる時に、魚体や水とともに侵入することが多い。
症状
トリコジナの被害は当才魚が最も受けやすい。二才以上の魚では多少の寄生では影響を受けることはない。大型鯉で大量の寄生があった場合は、環境の悪化や、飼育管理の不備のほうに問題があり、不健康な魚以外は症状が見られないことが多い。
【外観症状】
トリコジナが少々寄生しても体表には症状がほとんど現れない。顕微鏡でかなりの数が確認されるようになると、稚魚では体表の粘液が少なくなりザラついてきて、動きが不活発になる。
さらにトリコジナが増殖すると、食欲がなくなり、水面近くを浮遊したり、または注水口に集まる。また運動が不活発になり、体を擦り付ける動作をすることもある。
【体表に寄生した場合】
食欲不振、水面浮遊がみられる。粘液の異常分泌で、特に頭部が白濁し、体は充血する。重症になると全身が白っぽい粘液に覆われた白雲症状を現して、排水部に力なく寄せられるようになる。
【鰓に寄生した場合】
呼吸困難のため注水部に寄る。食欲不振になり、体は痩せて細く、頭だけが異様に大きく見えるようになる。多数寄生し末期症状に至ると、排水部に力なく寄せられ、呼吸困難により死亡しやすい。
治療
トリコジナ症の外観症状は、イクチオボドやキロドネラ、ダクチロギルスなどの外部寄生虫による症状と似ている上、混合寄生している場合が多い。これらの駆除に共通して効果がある過マンガン酸カリウム、食塩、ホルマリンを用いた駆虫法を以下に挙げる。また、これらの寄生虫症とは別に、同様の症状が見られる病気としてシュードモナス菌による細菌性白雲病が知られているが、新潟県内水面水産試験場によると、近年では症例が報告されていないという。
- 過マンガン酸カリウム……基本的な用い方は、水温15℃以下の時は、1トン当たり2g、水温15℃以上の時は、水1トン当たり3gを溶解して薬浴、または散布。
過マンガン酸カリウムは、汚れた水の池では効力が半減し、鰓の組織を破壊する薬害があるので、薬浴に用いる水を清浄にしてから使用する。また、過マンガン酸カリウムは酸化剤のため、容器や池中の金属類は錆が生じやすく、手や衣服に付けば侵される。使用に際しては環境汚染に注意を払う。
- 過マンガン酸カリウムの短時間薬浴……成魚で体力のある魚に限り、水1トン当たり5gで1時間の薬浴を二日置いて三回以上繰り返す。時間厳守。鯉の様子を見ながら、鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止する。
または、同様に体力のある成魚に限り、水1トン当たり200gで3分間の薬浴。時間厳守。鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止し、清水に戻す。
- 2%食塩水……水1トン当たり食塩20sで10〜20分間の薬浴。時間厳守。鯉の様子を見ながら行ない、異常が見られたら即座に中止する。
- ホルマリン……水1トン当たり、20〜30mlで最低三日間以上の薬浴。ただし、当才魚の場合は25撃限度とする。薬浴中は注水を止めるので、酸素欠乏に注意する。
ホルマリン(ホルムアルデヒド35%溶液)は人間に対しても毒性が強く、発ガン性もあるとされるため、取り扱いは慎重に行いたい。また、植物やラン藻類、藻類を枯死させるため、水変わりを起こす危険性もある。揮発ガスを吸い込まないように気をつけることはもちろんのこと、薬浴水の処理や、薬剤を溶かした池水の排水にも注意を払わなければならない。薬浴に用いる場合は、使用量を誤ると体表や鰭に充血・出血を見ることがある。また食塩との併用は避けなければならない。
予防
トリコジナはほとんどの錦鯉に蔓延していて、新しい鯉を入れる時、魚体や水とともに侵入することが多い。購入時、また品評会への出品後などは、幼魚の場合は治療方法の@またはC、成魚の場合はAを実施して、徹底的な予防、駆虫をしてから池に放す。
越冬池では、治療方法の@またはCを、一カ月に一回行うと効果があるとされている。